正確に言えば、貯金をしているつもりだった。
毎月仕事をして、現金が入ってくる。使った残りが口座に残る。「これが俺の貯金だ」と思っていた。
違う。あれは「使い残し」だ。貯金じゃない。
貯金と使い残しは全然違う。貯金は「収入が入ったら先に取り分けるもの」だ。使い残しは「使った後に残ったもの」だ。
使い残しには再現性がない。今月たまたま出費が少なかっただけで、来月は全部消える。実際、俺の口座残高は毎月バラバラだった。多い月もあれば、ほぼゼロの月もあった。
20歳から、34歳で元請けを自分で持つまで、それを繰り返していた。同じような職人が今も現場にいると思う。この記事はそういう人に向けて書いている。
現金収入には「心理的な罠」がある
建設業の収入は現金に近い形で入ってくることが多い。口座への振込でも、金額がまとまって一気に入る。
まとまったお金が入ると「俺は稼いでいる」という感覚になる。
月30万円が振り込まれた瞬間、気が大きくなる。「今月は稼いだ。少し贅沢してもいい」という感覚だ。だが待ってほしい。その30万円から引かれるものがある。
- 国民健康保険料(翌年請求分の積立)
- 国民年金保険料
- 所得税・住民税(翌年請求分の積立)
- 仕事の道具・消耗品
- 車の維持費・ガソリン代
- 来月仕事がなかった時のための生活費
全部引いた後に「自由に使えるお金」が残る。それを計算せずに「30万円入った」と喜んでいると、後で必ず詰む。
俺がそうだった。月の売上が多い時期は気が大きくなって使い、少ない時期に貯金がないことに気づく。これを34歳で元請けを自分で持つまで繰り返した。
「天気」と「収入」の罠
建設業、特に足場業は気候に左右される仕事だ。台風や雨天になれば現場が止まる。収入もその分減る。
天気の方が収入に直結していたというのが正直な感覚だ。雨が続けば仕事がなくなる。台風シーズンは特に読めない。会社員なら雨が降っても給料は変わらない。だが常用・請負の職人は、現場が止まれば収入がゼロになる日がある。
それでも「また晴れれば仕事が来る」という感覚で、稼いだ時に使い過ぎてしまう。「また仕事が来るから大丈夫」という根拠のない自信だ。
俺が一番お金がなかったのは、40代でケガをした時ではない。34歳で長年付き合ってきた元請けとの関係を断ち切り、新しい元請けとの関係を一から作り直していた時期だ。仕事の流れが一時的に細くなり、売上が落ちた。その時に「稼いだ時に貯めていなかった」という現実が一気に露わになった。
仕事があることと、お金が貯まることは別の話だ。
パチンコが教えてくれた「お金の消え方」
俺は20代、パチンコにかなりの金を使っていた。給料が入れば打ちに行く。勝てば使う。負ければまた稼ぎに行く。
しかも雨で現場が止まった日に、パチンコに行って負けていた。仕事もない、金も減る——二重で損をしていた。笑えない話だが、本当にそうだった。
今思えばあれはお金の使い方の縮図だった。収入があれば使う。なくなればまた稼ぐ。貯める発想が根本的になかった。「お金は使うもんだ」という感覚が染みついていた。誰かに教わったわけじゃない。周りの大人がそうだったし、業界全体がそういう空気だった。
「稼げる男は使う」という文化が、職人の世界にはある。それ自体は悪くない。だが「使う」と「貯める」のバランスを知らないまま40代になると、俺みたいになる。
パチンコ依存からどう抜け出したか、詳しくはこちらに書いた。→ 【黒歴史①】元パチンカスの俺が”配当株”に救われた5つの理由
先取り貯蓄という考え方
では何をすれば良かったのか。答えはシンプルだ。「収入が入ったら先に取り分ける」——これだけだ。これを「先取り貯蓄」という。
給料や売上が入った瞬間に、一定額を別口座に移す。残りで生活する。余ったらラッキー、足りなければ生活を調整する。
使い残しを貯金にしようとするから貯まらない。先に取り分けてしまえば、残りで生活するしかなくなる。
① 収入が入ったら3つに分ける
- 生活費口座(日常の支出用)
- 税・保険口座(国保・年金・所得税の積立用)
- 貯蓄・投資口座(手をつけない)
この3つを分けるだけで、お金の流れが見えるようになる。
② 税・保険口座には収入の20〜25%を入れる
個人事業主の税・保険負担は収入の20〜25%程度が目安だ。これを先に確保しておけば、翌年の国保・税金請求で詰むことがなくなる。指南書3で書いた「稼いだ年に翌年分を確保しておく」という話と同じだ。
③ 貯蓄・投資口座には収入の10〜15%を入れる
最初は少額でいい。月1万円でも、年間12万円になる。10年で120万円の元本になる。投資に回せばさらに増える。
「手取りが多い」という錯覚
指南書1でも書いたが、常用・請負の職人は振込から何も引かれない。これが「手取りが多い」という錯覚を生む。
会社員なら給料から社会保険料・税金が引かれた後の金額が手取りだ。職人の振込額は「手取り」ではなく「売上」だ。そこから税・保険を自分で払う必要がある。
「本当の手取り」はいくらか——2パターンで見てみる
全建総連の賃金調査によると、常用として働く建設職人の平均年収は481万円とされている。ただし20代や経験が浅い時期は300万円台というケースも多い。自分の年収に近い方で確認してほしい。
【パターンA】年収300万円(20代・経験浅め)
| 項目 | 金額(概算) |
|---|---|
| 売上 | 300万円 |
| 仕事の経費(道具・交通費など) | ▲30万円 |
| 国民健康保険料 | ▲20万円 |
| 国民年金保険料 | ▲20万円 |
| 所得税・住民税 | ▲10万円 |
| 実質手取り | 約220万円 |
月換算で約18万円。「月25万円稼いでいる」と思っていたのが、実質18万円台だ。
【パターンB】年収500万円(30代・中堅)
| 項目 | 金額(概算) |
|---|---|
| 売上 | 500万円 |
| 仕事の経費(道具・交通費など) | ▲50万円 |
| 国民健康保険料 | ▲40万円 |
| 国民年金保険料 | ▲20万円 |
| 所得税・住民税 | ▲30万円 |
| 実質手取り | 約360万円 |
月換算で約30万円。「月42万円稼いでいる」と思っていたのが、実質30万円台だ。どちらのパターンでも、振込額と実質手取りの差は月7〜12万円ある。この計算を知らないまま生活設計を立てると、毎月その分ずつ計算が狂っていく。
俺が本当にやっておけばよかったこと
20代の俺に一つだけ教えられるとしたら、これだ。
「収入が入ったその日に、10%を別口座に移せ」
それだけでよかった。難しい投資の知識もいらない。節税の勉強もいらない。まず「先に取り分ける」という習慣だけ作れば、20年後の俺は全然違っていた。
月25万円の収入から10%を取り分ければ月2.5万円。年間30万円。20年で600万円の元本になる。投資に回していれば、複利でさらに大きくなっていた。
「そんな少額で意味があるのか」と思うかもしれない。意味がある。続けることに意味がある。俺みたいに「使い残しが貯金」という感覚のまま20年過ごすより、はるかにマシだ。
今日からできること
① 口座を3つ用意する
生活費・税保険積立・貯蓄投資の3つに分ける。住信SBIネット銀行なら1つの口座の中に「目的別口座」を最大10個まで作れる。口座ごとに名前をつけて「税金・保険積立」「貯蓄・投資用」と管理できる。代表口座から目的別口座への定額自動振替も設定できる。スマホアプリで完結、無料だ。
② 収入が入ったらその日に移す
振込が来たら即座に税保険口座に20%、貯蓄投資口座に10%を移す。自動振替が設定できるならそれを使う。
③ 「本当の手取り」を計算する
今月の振込額から税・保険・経費を引いた金額を出す。それが自分の「本当の手取り」だ。その金額で生活設計を立て直す。
④ 使い残しを貯金と呼ぶのをやめる
月末に口座に残っている金額は「貯金」じゃない。「使い残し」だ。この認識を変えるだけで、お金の扱い方が変わる。
足場業界は長く続けられる仕事じゃない——若い時から考えておけ
建設業、特に足場業は体力勝負の仕事だ。俺の感覚では、長く続けられる業種じゃない。40代を過ぎれば体がついてこなくなる。現場でのケガリスクも上がる。50代・60代まで第一線で動き続けられる職人は、正直なところ少ない。
俺の同期や年齢が近い仲間を見ると、今の年齢で路頭に迷っている人がいる。「足場しかやってこなかった」という状況が、40代・50代になって一気に重くのしかかる。
だから若い時に、先を見越した立ち回りを考えることが重要だ。
- 引退する時期を決めて、それまでに稼ぎ切る——いつまでやるかを決めると、逆算して動けるようになる
- 副業・別収入の柱を作る——ブログ、投資、別の技術——現場以外の収入源を若いうちから育てる
- 資格・スキルで単価を上げる——長く働けない分、1日あたりの単価を上げることで収入を維持する
- 独立・事業化を目指す——自分が動かなくても回る仕組みを作る
体が動く20代・30代に貯める・増やす・別の柱を作る——これを早いうちから始めるかどうかで、40代・50代の景色が全然違う。俺はそれが遅かった。だから書いている。
まとめ
稼いでも貯まらない理由はシンプルだ。先に取り分けていないからだ。
- 使い残しは貯金じゃない
- 振込額は手取りじゃない。税・保険を引いた後が本当の手取りだ
- 現金収入には「気が大きくなる」心理的な罠がある
- 先取り貯蓄——収入が入ったらその日に取り分ける——これだけでいい
知識より先に、習慣だ。習慣より先に、仕組みだ。
次回は「独立するか、しないかの判断軸」——独立の現実コスト、元請けを持てるかどうかが全て、廃業の決断基準を書く。
📖 俺のこれまでの全記録を読みたい人へ
元職人→廃業→障害→どん底→投資で4,000万円——
この軌跡を一本のストーリーとしてまとめた「ヘタゴリラ一代記」をnoteで公開中です。
ブログではバラバラに書いてきた話が、時系列でつながります。

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