6メートルから落ちた日のことを、今でも覚えている
40代のある日、足場から落ちた。
高さ6メートル。あと1センチずれていたら動脈だったと、後で医者から言われた。
その瞬間から、俺の人生は変わった。
脊髄損傷。廃業。収入ゼロ。
「まさか自分が」という感覚があった。
20年以上現場で動いてきて、大きなケガは一度もなかった。
「俺は大丈夫だ」という根拠のない自信があった。
だが現実は、誰にでも「その日」は来る。
建設業、特に足場業は体力勝負の仕事だ。
毎日ケガのリスクを背負いながら現場に立っている。
ケガだけじゃない。病気、加齢、気力の限界——いつか必ず体が動かなくなる日が来る。
その日が来た時に、何も備えていなかったら——俺がそうだったから、これは強く言いたい。
このシリーズの最終回は「備え」の話だ。
体が動く今のうちに知って、動いてほしい。
まず知っておくべき「公的な備え」
① 障害年金——知らないと申請すらできない
指南書1でも書いたが、改めて伝えておく。
障害年金は、病気やケガで働けなくなった時に受給できる年金だ。
老後の話ではなく、現役世代でも受給できる。
俺は事故後に申請して、障害年金を受給できるようになった。
だがこの制度、知らないと申請すらしない人が多い。
受給には条件がある。
「初診日の前日時点で、直近1年間に年金の未納がないこと」または「加入期間の3分の2以上が納付済みであること」——この条件を満たしていなければ、どれだけ重い障害を負っても1円も出ない。
指南書1で書いた通り、若い頃に年金を払ったり払わなかったりしていた俺は、ギリギリ条件を満たしていた。
あの時の自分が少し違う選択をしていたら、障害年金はなかった。
年金は老後のためだけじゃない。今この瞬間のための保険でもある。
まず年金の納付状況を確認してほしい。
ねんきんネット(日本年金機構のサイト)で自分の納付記録を確認できる。
② 労災保険——補償内容まで確認しろ
指南書2で詳しく書いたが、建設業の一人親方・常用・請負で働いている人は労災保険の特別加入制度を使える。
加入しているだけでは不十分だ。
給付基礎日額——つまり「ケガで休んだ時に1日いくら出るか」——を確認しろ。(詳細は一人親方の労災記事参照)
これが低く設定されていると、現場で大ケガをして数ヶ月休んでも、生活費が全然足りないという現実になる。
親方が払ってくれている場合も、内容まで必ず自分で確認する。
③ 就業不能保険——民間保険で上乗せする
労災保険は現場での事故に対応しているが、病気には対応していない。
がん・脳卒中・心疾患——これらで長期間働けなくなった時の備えとして、民間の就業不能保険を検討する価値がある。
月々数千円〜の掛け捨て保険で、働けなくなった時に毎月一定額が出る仕組みだ。
独身なら不要かもしれないが、家族を養っているなら検討してほしい。
稼げるうちに「次の一手」を考えろ
ここからが、このシリーズで一番伝えたかった話だ。
建設業、特に足場業界は、他の職種に比べて体力・気力の限界が来るのが早い。
40代・50代になれば、20代と同じようには動けなくなる。
体が動く今のうちに、次の一手を仕込んでおく必要がある。
次の一手には大きく3つの方向がある。
① 元請けを目指して事業に投資する
ハードルは高い。だがリターンも別格だ。
指南書5で書いた通り、独立には3段階ある。
①下請け独立、②一部元請け(ハイブリッド型)、③完全元請け——だ。
ここで言う「元請けへの投資」とは③の完全元請けを目指すことだ。
資材・資材置き場となる土地・営業力・人材——全てに設備投資が揃った状態。
簡単にできることではないし、誰にでも向いているわけでもない。
だが成功した時のリターンは、株式投資や副業とは次元が違う。
- 自分が現場に出なくても事業が回る仕組みが作れる
- 事業に価値がつき、売却という選択肢も生まれる
- 単価を自分でコントロールできる
「稼いだ金を事業に再投資する」——これが最もリターンが大きい選択肢だ。
ただし失敗した時のリスクも大きい。
自分の適性・資金力・人脈——これを冷静に見極めた上で判断してほしい。
そしてここで、俺自身の話を書いておく。
俺の周りにも③の完全元請けになった人間がいた。
資材を揃えて、土地を持って、営業マンを雇って——立派な会社になっていった。
当時の俺は、羨ましかった。
そして情けなかった。
「なぜ俺はあそこまでできないんだ」という気持ちが、ずっとあった。
だが今振り返ると、その敗北感に引っ張られて「次の一手を考える時間」を無駄にしていたと思う。
③を目指せない現実を嘆くより、②のハイブリッド型で稼ぎながら株式投資を始める——そっちに早く頭を切り替えていれば、もっと早く今の状態に辿り着けていた。
敗北感は、次の一手を遅らせる。
③を目指せないと気づいた瞬間が、別のゴールに向かうスタートラインだ。
その切り替えが早いほど、40代・50代の景色が変わる。
② 20代から株式投資を始めて、早期引退に備える
俺は廃業後に高配当株投資を始めた。
2022年末の資産は約131万円だった。
それが今では4,000万円を超えている。
だがこれは「株で一発当てた」話じゃない。
廃業前に積み上げてきた現金を投資口座に移し、高配当株を買い続けて配当を再投資し続けた結果だ。
もし20代・30代の現役時代から同じことをやっていたら——今頃どうなっていたか、考えると悔しい。
投資の話を詳しく書くとキリがないので別記事に譲るが、まず一つだけ言う。
「稼いだ金を使い残すのではなく、先に投資口座に移す」——これだけでいい。
月1万円でも、年間12万円になる。
20年続ければ元本240万円。配当と値上がりが乗れば、それ以上になる。
体が動かなくなった時に、配当収入があるかないかで、その後の人生は全然違う。
③ 副業・ITスキルを今のうちに仕込む
体が動かなくなった時、現場仕事以外のスキルがなければ収入がゼロになる。
俺が廃業後に始めたのがブログだ。
最初から稼げるものではない。
だが元気なうちからスキルを仕込んでおけば、体が動かなくなった時に別の収入源になる可能性がある。
建設業とは全く別世界——ITやブログやSNS——これを「俺には関係ない」と思う職人が多い。
だが考えてほしい。
現場で20年積み上げてきた経験と知識は、それ自体がコンテンツだ。
「建設業で働いてきた俺だから書けること」が必ずある。
このシリーズがまさにそれだ。
俺みたいなミスを犯さないための指南書——これは現場を知らない人間には絶対に書けない。
そしてここで、今の時代ならではの話をしておきたい。
少し前まで、ITで稼ぐにはプログラミングが必要だった。
今はAIがある。ブログも、SNSも、動画台本も——コードが書けなくても作れる。
現場で20年積み上げた経験と知識は、それ自体がコンテンツだ。
「難しそうだから後で」と思っているうちに波は過ぎていく。今がチャンスだ。
副業として考えられる選択肢はいくつかある。
- ブログ・note(経験を記事にして広告収入・アフィリエイト)——AIで効率化できる
- YouTube(現場系の動画は需要がある)
- SNS発信(建設業のリアルを発信するだけで需要がある)
- 建設業の資格・経験を活かしたコンサルや講師
どれも最初から稼げるものではない。
だからこそ「体が動く今のうちから始める」ことに意味がある。
副業は種を蒔くのに時間がかかる。
現場で体を使いながら、並行して種を蒔き続ける——これが体が動かなくなった時の「保険」になる。
現場仕事をしながら副業スキルを磨くのは、地獄の沙汰だ。
朝から現場で体を使い、夜にブログを書く。休日にSNSを学ぶ。
疲れ果てた体でスマホやパソコンに向かう——これは並大抵の努力じゃない。
しかもすぐには結果が出ない。
3ヶ月やっても稼げない。半年やっても変わらない。
だから多くの人が諦める。
だがそこで続けた人間が、周りと差をつける。
結果が出ないのは失敗じゃない。まだ種が育っていないだけだ。
継続さえすれば、必ず芽が出る時が来る。
華々しかった人が、落ちぶれていく現実を見てきた
俺はこの業界で、若い頃に華々しかった人間を何人も見てきた。
腕が立って、稼いで、現場でも一目置かれていた。
俺自身もそうだったと思う。
だがその人たちが今どうなっているか。
路頭に迷っている人がいる。
全く別の業界に行ったが馴染めずに苦労している人がいる。
体を壊して、何も残っていない人がいる。
「あの時の俺たち」が、誰も教えてくれなかったから知らなかっただけだ。
確定申告の意味も、年金の仕組みも、保険の内容も、貯蓄の方法も、次の一手の考え方も——誰も教えてくれなかった。
だから同じ道を歩んでほしくない。
今この業界で働いている若い人たちに、俺が知っておけばよかったことを全部伝えたい。
それがこのシリーズを書いた理由だ。
知識は、知った瞬間から武器になる。
今日から一つでも動いてほしい。
俺の今——廃業後の現実と、そこからの再起
40代で廃業した時、俺の手元にはほとんど何もなかった。
障害年金の申請をして、生活を立て直すところから始めた。
そこから高配当株投資を始めて、今は配当収入が年間75万円を超えるようになった。
資産は4,000万円を超えた。
だがこれは「廃業してから頑張ったから」だけじゃない。
廃業前に現場で稼いで積み上げた現金があったから、投資の元手になった。
稼いだ時期に使い切っていたら、投資の元手もなかった。
指南書4で書いた「先取り貯蓄」、指南書3で書いた「節税と積立」——これを若いうちからやっていた人間と、やっていなかった人間では、廃業後の景色が全然違う。
俺はやっていなかった側だ。だから時間がかかった。
今からやる人間には、もっと早く到達できる可能性がある。
この業界には夢がある——ゴール設定が全てを変える
建設業、特に足場業界は「きつい・危険・体が持たない」という話ばかりしてきた。
だがこれだけは言っておきたい。
やり方さえ間違わなければ、40代での早期引退も夢じゃない。
投資収入や副業収入で生活できるようになり、現場を引退する——これが現役時代の稼ぎをきちんと管理すれば、十分に現実的な目標になる。
建設業は稼げる業種だ。
20代・30代で年収400〜600万円を稼げる職種は、そう多くない。
しかも指南書5で書いた通り、下請けでも600万円以上、やり方次第では1,000万円を超えることもある。
元請けになる必要すらない。下請けのまま、スキルと段取り次第でそこまで到達できる業種だ。
その稼ぎを先取り貯蓄して、節税して、投資に回し続ければ——現役期間が短くても、40代で十分な資産を作れる可能性がある。
俺自身がそれを証明している。
廃業後から動き始めて、資産4,000万円・年間配当75万円超——これは特別な才能でも運でもない。
知識を持って、仕組みを作って、続けただけだ。
現役時代からそれをやっていたら、もっと早く到達できていた。
この業界でゴール設定が重要な理由
漠然と「稼げるうちに稼ぐ」では、体が動かなくなった時に何も残らない。
だが「40歳で引退する」「45歳までに資産3,000万円を作る」というゴールを決めれば、逆算して動けるようになる。
- いつまで現場で働くか
- そこまでにいくら貯めるか
- 毎月いくら投資に回すか
- 副業はいつから始めるか
これが全部、ゴールから逆算できる。
ゴールなき努力は、消耗だ。ゴールある努力は、積み上げだ。
若い職人に伝えたい。
この業界は夢がない業界じゃない。
稼げる力がある業種で、やり方次第で誰よりも早くゴールに辿り着ける可能性がある。
ただし——知識がなければ、その稼ぎは全部消えていく。
俺がそうだったから、これは強く言える。
廃業は失敗じゃない——計画的廃業という選択
廃業は、決してマイナスではない。
俺の廃業は事故によるもので、自分でタイミングを選べなかった。
だからこそ言える——タイミングを自分で決められた廃業は、むしろ次のステージへの出発点になる。
下請けと元請けで、廃業の選択肢は違う。
元請けとして材料・営業力・顧客を持っていれば、事業売却という選択肢がある。
長年築いてきた取引先・材料・ブランドに価値がつく。廃業がそのまま「売却益」になる可能性がある。
一方、下請けの場合は事業売却は難しい。
だからこそ計画的廃業——つまり「次の一手がある状態での廃業」——が重要になる。
- 引退時期を決めて、それまでに投資資産を積み上げる
- 副業・ブログ・SNSなど別の収入源を現役中に育てておく
- 廃業後の生活費を配当収入・年金でカバーできる状態を作る
この準備ができている状態での廃業は、「現場からの卒業」だ。失敗じゃない。
俺が今こうして投資とブログに取り組んでいるのも、廃業が終わりではなく次のステージの始まりだと信じているからだ。
現役中にゴールを決めて、そのゴールに向けて逆算して動く。
廃業をゴールとして設計できた人間には、その先の人生がある。
この業界で働く若い人たちに、そういう未来を歩んでほしい。
それがこのシリーズを書いた、一番の理由だ。
稼げる期間は短い——だからこそ早く決めろ
これだけは強く言っておく。
下請けで稼ぐこと自体のハードルはそこまで高くない。
スキルと段取りがあれば、600万円・1,000万円も現実的だ。
だが元請けになるには投資が要る。
材料・トラック・営業力——これを揃えるためのコストとリスクは、誰にでも背負えるものじゃない。
だからこそ若いうちに、自分の適性と向き合って、どこに投資するかを決めてほしい。
- 元請けを目指すのか——材料・設備・営業力に投資して事業を大きくする
- 早期引退を目指すのか——稼ぎを株式投資に回して配当収入で引退する
- 別の収入源を作るのか——ブログ・SNS・ITスキルで現場以外の柱を育てる
どれが正解かは人それぞれだ。
だが決めないまま流されることが、一番の失敗だ。
方向性を早く決めれば、逆算して動ける。
年齢を重ねた時に「あの時こうしていれば」という後悔が、確実に少なくなる。
そしてもう一つ——今稼げていても、その期間が短いことを自覚しておけ。
体が動く今が特別な時期だ。
この時期は必ず終わる。
終わった後に何が残るかは、今この瞬間の選択で決まる。
後悔しない選択を、今日から始めてほしい。
第1回:お前は社長だ
会社員じゃなければ全員事業主。その自覚を持て。
第2回:元請けと下請けの力学
使われる側の構造を知れ。知っている人間と知らない人間では全然違う。
第3回:保険と税金
確定申告は怖くない。経費と節税を使えば、会社員より有利な面もある。
第4回:稼いでも貯まらない理由
使い残しは貯金じゃない。先に取り分ける習慣だけ作れ。
第5回:独立の判断軸
下請けも立派な独立だ。自分の立場を理解して主体的に動け。
第6回:備える
体が動く今のうちに、投資・副業・保険——次の一手を仕込め。
俺みたいになるな。
ケガをしてから気づくな。
廃業してから動くな。
貯金がなくなってから焦るな。
知識は、知った瞬間から武器になる。
このシリーズを読んだ今日から、一つでも動いてほしい。
体が動く今が、一番早い。
📖 俺のこれまでの全記録を読みたい人へ
元職人→廃業→障害→どん底→投資で4,000万円——
この軌跡を一本のストーリーとしてまとめた
「それでも俺は生きている ― ヘタな仮設屋の、笑えるけど刺さる30年 ―」をnoteで公開中です。
→ note: hetagorilla

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