突然だが、はっきり言う。
現場で一人親方として働いているなら、お前は社長だ。
「手伝い」でも「常用」でも「下請け」でも関係ない。
会社員として雇用されていないなら、それは全員、個人事業主——つまり事業の代表者だ。
「社長って言葉は大げさだろ」と思うかもしれない。
だが法律的には本当にそうなる。
社長には社長の義務がある。
税金の申告、保険の手続き、年金の管理——会社員なら会社がやってくれることを、全部自分でやらなければいけない。
誰も教えてくれないから知らないだけで、知らなかったでは済まされない。
俺が20代の頃、それを知らなかった。
税金が引かれない給料を見て「得した」と喜んでいた。
今思えば、笑えない話だ。
同じような人間が今も現場にいると思う。この記事はそういう人に向けて書いている。
世の中には2種類の働き方しかない
難しい話は何もない。シンプルに考えてほしい。
働き方は、世の中に2種類しかない。
① 会社員(雇用されている人)
② それ以外(事業をやっている人=個人事業主)
建設業でいえば——
- 会社に入って給料をもらっている → 会社員
- 一人親方・下請け・常用・手伝いとして現場に入っている → 個人事業主
この2つは見た目がほぼ同じだ。
朝7時に現場に入って、夕方5時に上がる。
元請けの指示で動いて、月末に金が振り込まれる。
だが権利も義務も、全然違う。
| 会社員 | 常用・請負(個人事業主) | |
|---|---|---|
| 税金 | 会社が天引き・年末調整で完結 | 自分で確定申告 |
| 健康保険 | 会社と折半(実質半額) | 全額自己負担(国保) |
| 年金 | 会社と折半(実質半額) | 全額自己負担(国民年金) |
| ケガ | 労災保険が適用 | 原則適用なし※ |
| 失業 | 雇用保険で給付あり | 給付なし |
| 雇用保険 | あり | なし |
※建設業の一人親方は特別加入制度で労災保険に入れる(後述)
給料から何も引かれないのは「得」じゃない。
引かれない分を全部、自分で後から払わなければいけない——それが個人事業主だ。
俺は20代、この表の右側にいながら、それをまったく理解していなかった。
税金が引かれない振込額を見て「会社員より手取りが多い」と本気で思っていた。
馬鹿だった。本当に馬鹿だった。
「俺は雇われているから関係ない」と思っているなら、今すぐ確認しろ
10代・20代でこの業界に入ると、会社員として働いた経験がないまま現場に立つことになる。
「社会保険って何?」「確定申告って何?」——知らなくて当然だ。誰も教えてくれない。
だから最初にやることは一つだけだ。
「俺は会社員なのか、個人事業主なのか」を今すぐ確認する。
確認の仕方はシンプルだ。給料明細か振込明細を見る。
- 所得税・健康保険料・厚生年金保険料が引かれている → 会社員
- 何も引かれていない → 個人事業主の可能性が高い
わからなければ元請けや親方に直接聞く。
「俺って会社員なの?常用なの?請負なの?」
これだけ聞けばいい。恥ずかしくない。知らないほうが後で損する。
そしてここで一つ、判断軸を教えておく。
この質問をした時に、誤魔化したり、鬱陶しそうにしたり、はぐらかすような職場や親方なら——すぐにやめた方がいい。
自分の雇用形態を知る権利は、誰にでもある。 それを答えられない、あるいは答えたくない職場は、他にも何かを隠している可能性が高い。
「信じられない話だが、こういう職場は実在する」——俺自身が経験した話だ。 そして少数派でもない。
国交省の聞き取り・アンケートでも「技能者の一人親方化が進んでいる」なかで「実際は雇用されている労働者であるにもかかわらず、偽装請負の一人親方として従事している技能者も一定数存在する」との実態が紹介されている。
これを「偽装請負」という。違法だ。だが今もこの業界に存在する。
取引先から一人親方で働くように言われているという回答も約2割あった。不本意ながら言われるがまま働いている人間が、今もこの業界にいる。
だからこそ聞け。聞いて、ちゃんと答えてくれる職場を選べ。それだけで人生が変わる。
俺は20歳から、ずっと確定申告をしなければならない立場だった
20歳からずっと、俺は一度も会社員になったことがない。
親方の下で働いていても、元請けから仕事をもらっていても、給料から何も引かれないまま振込があるだけだった。
その時点で、確定申告の義務はすでに俺にあった。
だが誰も教えてくれなかった。
「確定申告って何?」を聞ける相手が、現場にはいなかった。
知らなかったから、やらなかった。悪意はない。ただ知識がなかっただけだ。
だがそれは「知らなかったから仕方ない」では済まされない。
税務署には、知らなかったという言い訳は通用しない。
申告が必要なのにやっていない場合のリスクは3つある。
① 無申告加算税と延滞税が発生する
申告期限を過ぎると「無申告加算税」(納める税額の15〜20%)と「延滞税」(年利約8〜14%)が上乗せされる。放置するほど増える。
② 過去5年分を遡って追徴課税される
税務署は過去5年分の申告を求めることができる。現場の入金記録や通帳の動きで収入は把握できるので、「現金だからバレない」は通用しない。
③ 青色申告の節税メリットが一切使えない
開業届を出して青色申告をすれば、最大65万円の控除が使える。無申告のままでは、この節税を一度も使えないまま終わる。
年金を「払ったり払わなかったり」が、どれだけ怖いことか
ここが一番伝えたい話だ。
20代の俺は、国民年金の請求書が来た時だけ払っていた。
手元に金がない時は払わなかった。
「老後の話なんて、まだ先だろう」と思っていた。
だがこれは老後だけの問題じゃない。
年金には「障害年金」という制度がある。
病気やケガで働けなくなった時に、年齢に関係なく受給できる年金だ。
俺は40代で現場から落下して脊髄を損傷し、この制度に助けられた。
だが障害年金には受給のための「加入要件」がある。簡単に言うと——
「障害の原因となった病気やケガの初診日の前日時点で、直近1年間に年金の未納がないこと」
または「20歳以降の年金加入期間のうち、3分の2以上が納付済みであること」
この条件を満たしていないと、どれだけ重い障害を負っても、障害年金は1円も出ない。
俺は事故の後に申請をした時、初めてこの条件の存在を知った。
払ったり払わなかったりを繰り返していた俺が、ギリギリ条件を満たしていたのは、正直なところ運が良かっただけかもしれない。
もし基準に達していなかったら、と今でも考える。怖い。
現場系の仕事は、毎日ケガのリスクを背負っている。
若くても、健康でも、明日どうなるかは誰にもわからない。
年金を「老後のため」だけだと思っているなら、認識を変えてほしい。
年金は「今、働けなくなった時」のための保険でもある。
障害年金の申請を自力でやった記録は、こちらに詳しく書いた。→ 【実録】社労士なしで障害年金を自力申請した全記録
「引かれない=得」のカラクリ
ここで最初の話に戻る。
会社員は給料から毎月、所得税・住民税・健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料が引かれている。
対して個人事業主は、振込額から何も引かれない。
だが「払わなくていい」わけじゃない。全部、自分で後から払う必要がある。
しかも会社員と違って、健康保険料も年金保険料も全額自己負担だ。
会社員なら会社が半分持ってくれるが、個人事業主にはそれがない。
引かれない分を自分で払って、なおかつカバーされないリスクを自分で管理しなければいけない。
「引かれない=手取りが多い」は正確じゃない。「引かれない=後で自分で払う」が正しい。
最低限、今すぐ確認すべきこと
以下を順番に確認してほしい。
① 自分の雇用形態を確認する
元請けとの契約が「会社員(雇用)」なのか「常用」なのか「請負」なのかを確認する。
契約書がない場合は「俺って会社員なの?常用なの?請負なの?」と直接聞く。これだけで動くべきことが全部変わる。
② 国民健康保険・国民年金の加入状況を確認する
独立・転職後に切り替えをしていない人は今すぐ役所へ。
年金は未納期間が積み重なると、将来の受給額が減るだけでなく、障害年金の受給資格を失うリスクがある。
③ 確定申告の状況を確認する
直近で申告できていない年がある人は、税務署の無料相談窓口に正直に相談する。
「やっていなかった」と自分から動く方が、後から追徴課税を受けるより必ずマシだ。
④ 開業届を出す
確定申告をするなら、まず開業届を税務署に提出する。
青色申告の節税メリットを使うためにも必要だ。e-Taxでも出せる。
⑤ 一人親方労災保険を検討する
建設業の一人親方は特別加入制度で労災保険に入れる。月数千円からある。
現場に入るたびにケガのリスクを負いながら無保険で働くのは、リスクが高すぎる。
俺が労災保険に入っていた結果、人生がどう変わったかはこちらに書いた。→ 一人親方が労災に入っていなかったら、俺の人生は詰んでいた
まとめ
「税金が引かれない=得」と思っていた若い頃の俺に、誰かがこれを教えてくれていたら。
確定申告の意味を、年金の役割を、もっと早く知っていたら。
そう思うから書いている。
- 個人事業主は、引かれない分を全部自分で払う
- 確定申告は義務。やっていない年があるなら、今すぐ動く
- 年金の未納は、老後だけでなく「今」のリスクにもなる
- 障害年金の受給資格は、現役時代の年金納付履歴で決まる
ケガをしてから「何もやっていなかった」と気づいても遅い。俺がそうだった。
次回は「元請けと下請けの力学」について書く。
単価の決まり方、値切られ続ける構造、「かわいがられる職人」の正体——現場で20年動いた俺が見てきたリアルを書く。
📖 俺のこれまでの全記録を読みたい人へ
元職人→廃業→障害→どん底→投資で4,000万円——
この軌跡を一本のストーリーとしてまとめた「ヘタゴリラ一代記」をnoteで公開中です。
ブログではバラバラに書いてきた話が、時系列でつながります。

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