申請書類を前に、手が止まった。
「発症から現在に至るまでの経過を記入してください」——そう書いてある。
事故から1年以上が経っていた。その間に手術を何度受けたか。どれだけ介助に頼っていたか。クラッチ杖で歩けるようになったのがいつで、何が今もできないのか。
書かなければならない事実は山ほどある。でも、それを「審査に通る文章」にする方法を、俺は知らなかった。
社労士には頼まなかった。頼む余裕がなかった、というのが正確だ。
結果から言う。申請から約3ヶ月後、障害年金1級の認定通知が届いた。
この記事は、その全工程の記録だ。身体障害の体験をもとに書いているが、申立書の書き方・5期間の区切り方・社労士との比較は精神障害・内部障害の方にも共通する。ぜひ最後まで読んでほしい。
申請から認定まで──実際のタイムラインで見る全工程
制度の説明より、先に俺の実際の流れを見てほしい。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 平成29年8月28日 | 事故発生・緊急入院・発病日 |
| 〜平成30年3月 | 入院・手術・急性期リハビリ・転院・自宅療養 |
| 平成30年3月3日 | 労災年金の診断書を請求(症状固定・事故から約6ヶ月) |
| 平成31年2月28日 | 障害年金の「認定日」──初診からちょうど1年6ヶ月 |
| 平成31年3月18日 | 障害年金の診断書を医師に請求 |
| 平成31年3月末 | 病歴・就労状況等申立書を完成・年金事務所に提出 |
| 令和元年6月初旬 | 障害年金1級の認定通知が届く(申請から約3ヶ月) |
ここで見てほしいのは2つだ。
① 労災と障害年金で「動けるタイミング」が全然違う
労災の診断書は症状固定後すぐ(事故から約6ヶ月)に請求できた。しかし障害年金は初診から1年6ヶ月経たないと認定日すら来ない。その差、約1年。この「待てない1年」の間、俺の生活を支えていたのは労災の休業補償だった。
② 診断書請求から申請まで2週間、でも申立書には「かなりの時間」をかけた
3月18日に診断書を請求し、3月末に申請している。実質2週間弱だ。この期間、申立書の記入に集中した。書いては直し、また書いた。それだけ時間と気力を使う書類だということだ。
障害者手帳は必要か──等級は年金と連動しない
申立書に「障害者手帳」の記入欄がある。手帳の種類・取得年月日・傷病名を記入する欄だ。
ここで勘違いしやすいのが、「手帳がないと申請できない」「手帳1級なら年金も1級になる」という思い込みだ。どちらも正しくない。
- 手帳は必須ではない。持っていれば参考資料として添付できるが、審査結果に直結するわけではない
- 等級は連動しない。手帳と年金はそれぞれ別の基準で独立して審査される
ただし精神障害者保健福祉手帳は、障害年金の審査基準と仕組みが近いため比較的関連しやすいと言われている。それでも独立した審査であることに変わりはない。
手帳を持っていない人も、申請をためらう必要はない。
申請の全体像──7つのステップ
- 年金事務所に相談・書類を受け取る
- 受診状況等証明書(初診証明)を取得する
- 診断書を担当医に依頼する ← ここが最重要
- 病歴・就労状況等申立書を記入する ← ここが最難関
- 全書類を年金事務所に提出する
- 審査を待つ(目安1〜3ヶ月)
- 認定通知・年金証書が届く
必要書類チェックリスト
| 書類 | 取得先 | ポイント |
|---|---|---|
| 受診状況等証明書 | 初診の病院 | 「初診日」の証明。転院していると複雑になる |
| 診断書 | 現在の担当医 | 様式は年金事務所でもらう。医師との関係が重要 |
| 病歴・就労状況等申立書 | 自分で記入 | 最も時間がかかる。後述 |
| 年金手帳またはマイナンバー | 手元にあるもの | |
| 戸籍謄本・住民票など | 市区町村 | 状況により異なる |
担当医師の選び方が、結果を左右する可能性がある
これは誰も教えてくれなかった話だ。
俺は同じ身体で、2種類の給付申請をした。労災年金と、障害年金だ。結果は——
- 労災年金:2級
- 障害年金:1級
障害の実態は同じだ。なぜ等級が違うのか。自分でも調べた。結論はこうだ。
「等級は審査基準で決まるが、結果は診断書で変わる」
| 労災年金 | 障害年金 | |
|---|---|---|
| 審査機関 | 労働基準監督署など | 日本年金機構 |
| 審査の視点 | 身体の障害そのもの(可動域・麻痺の程度) | 生活・仕事への影響(働けるか・日常生活ができるか) |
同じ体でも制度が違えば等級がズレる——これは異常ではなく制度設計の違いによる結果だ。審査基準の違いが約7割、診断書の書き方の影響が約3割という整理が現実に近い。
労災の診断書を書いたのは転院先のリハビリ病院の医師。障害への理解が薄いと感じる先生で、書類的な処理として診断書を作成した印象だった。
障害年金の診断書を書いてくれたのは、救急搬送された最初の病院の担当医。俺の経過を一番知っている先生で、依頼したとき快く引き受けてくれた。
診断書を書き慣れている医師は、審査で重視される項目を適切に記載できる。書き慣れていない医師は、同じ状態でも軽く評価されることがある。
診断書を誰に頼むかを選べる状況なら、自分の状態をよく理解している医師に依頼することを強くすすめる。
年金事務所には、準備してから行った
事前に調べた。年金事務所は混んでいること、窓口での説明が速くて聞き逃しやすいこと。
だから最初の相談では、書類の受け取りと書き方の確認に集中した。担当者は丁寧に教えてくれたが、電話では伝わりにくいことも多い。移動が困難な方は代理人を立てることもできるので、事前に確認してほしい。
社労士に見せることなく、一人で申請した。もし結果が2級だったら、後悔していたと思う。それくらい紙一重の判断だったと今でも思っている。
病歴・就労状況等申立書──これが全ての鍵だった
まず「5期間」に区切ることから始まる──これ自体が難しい
申立書には、発症から現在までを最大5つの期間に区切って記入する欄がある。
この「区切り方」が最初の難関だ。5等分すればいいわけではない。症状や生活状況が変わったタイミングで区切るのが正しい。審査官に「状態の変化」が伝わるように区切ることが重要だ。
| 期間の区切り方 | 身体障害の例(俺の場合) | 精神障害の場合の参考例 |
|---|---|---|
| ① 発症・初診 | 事故・緊急入院 | 初めて受診した日・診断がついた日 |
| ② 急性期 | 手術・完全介助状態 | 最も症状が重かった時期・入院・休職 |
| ③ 転換点 | 転院・リハビリ開始 | 薬が変わった・通院形態が変わった |
| ④ 回復の試みと限界 | 荷重訓練・限定的歩行 | 復職を試みたが継続できなかった時期 |
| ⑤ 申請時点の状態 | 自宅療養・現在の制限 | 現在の通院頻度・日常生活の実態 |
区切りの目安は「入院・転院・手術・リハビリ開始・退院・症状固定」などの医療上の節目だ。精神障害の場合、「明確な発症日がわからない」「初診が何年も前で証明が難しい」という問題もある。その場合は年金事務所に相談しながら進めてほしい。
申立書で一番重要なこと──「具体的に」とはどういうことか
「できない」と書くだけでは、審査官には伝わらない。
審査官は現場を見ない。書いてあることしか判断できない。だから「何が」「なぜ」「どの程度」「誰にどう手伝ってもらっているか」の4点を意識して書く必要がある。
身体障害の場合:
❌「トイレに一人で行けない」
✅「両下肢の麻痺により立位保持が困難なため、便座への移乗時に介助者に腰を支えてもらわないと座れない。排便後も同様で、自力で立ち上がることができない」
❌「歩くのが難しい」
✅「クラッチ杖を使用しても10メートル程度で下肢のしびれと痛みが強くなり立ち止まらざるを得ない。段差・坂道・雨天時は転倒リスクがあるため屋外への単独外出は不可能」
精神障害の場合:
❌「外出が怖い」
✅「人混みに入ると動悸・過呼吸が起き、その場にしゃがみ込んでしまうことがある。電車は乗車できず、外出は家族の同伴がある場合のみ可能で、月に2〜3回が限界」
❌「集中できない」
✅「5分以上同じことに集中し続けることが困難で、書類の記入や読書は途中で中断せざるを得ない。食事の準備に1〜2時間かかる」
精神障害の方は「調子のいい日」ではなく「調子の悪い日」を基準に書いていい。その「悪い日」がどれくらいの頻度で来るかも書く。波があること自体も、正直に記述すべき情報だ。
俺が実際に書いた申立書──原文そのまま公開する
「どう書けばいいかわからない」という声が多いので、俺が1級認定を受けた申立書の内容を原文のまま公開する。病院名のみ伏せている。
読んでほしいのは「文章の上手さ」ではない。何を・どの粒度で・どんな言葉で書いているかだ。
【期間①】平成29年8月28日(発症当日)
高所作業中、足場の上から転落。コンクリートから突き出たボルトが腰椎・内部に刺さり気を失う。救急搬送。ボルト摘出手術、腰椎仮骨固定術、硬膜管修復術などの緊急手術を受ける。
▶ 「転落した」ではなく「ボルトが刺さった」。1行で映像が浮かぶ。審査官が何が起きたかを一瞬で理解できる。
【期間②】平成29年8月29日〜9月27日(○○病院・入院)
両下肢麻痺、膀胱直腸障害が残り入院。両足が全く動かず尿・排便の感覚もなく、移動・排泄が自分でできない。食欲も無く体重が激減。車いすへの移乗、自己導尿が1人で出来る様に訓練開始。同時に足を動かすためのリハビリ訓練開始。
▶ 「動けない」ではなく「両足が全く動かず尿・排便の感覚もない」。何の感覚がなく、何ができないのかが具体的に書いてある。審査官は「麻痺」という単語だけでは判断できない。
【期間③】平成29年9月27日〜12月28日(○○リハビリテーション病院・転院)
リハビリの量を増やすためにリハビリ病院に転院。本格的なリハビリ開始。足が動かない事も慣れ、入院生活の中では車いすへの移乗、自己導尿が訓練より1人でできる様になる。排便がうまくいかず、腹痛に悩まされる。
▶ 「少し回復した」ではなく「訓練すれば車いす移乗と自己導尿はできるが、排便は今もうまくいかない」。改善した部分と残った問題を両方書いている。回復したことだけ書くと審査が不利になる。
【期間④】平成29年12月29日〜平成30年3月3日(○○リハビリテーション病院・入院延長)
入院期間を3月まで延長しリハビリを続行。身体的変化は思ったほどなくなっているが精神的には落着いた様子。腹痛も少なくなり、時間をかけて排便、自己導尿をして車いすに移乗しトイレで出来る様になってきたが、失敗する事も多い。感覚障害が有為、膀胱に漏れている事が多い。
▶ 「トイレができるようになった」で終わらせていない。「出来る様になってきたが、失敗する事も多い」「膀胱に漏れている事が多い」──できたことと、まだできていないことの両方を正直に書いている。
【期間⑤】平成30年3月4日〜平成31年2月28日(○○病院・退院〜申請時点)
症状固定をし退院。自宅での生活は妻の介助無しでは生活できない状態だが、1人で出来る様に訓練中。排便、自己導尿、車いす移乗の失敗を減らす事が課題となる。腹痛がひどくなり移乗・移動が困難となる日が多い。
▶ 「妻の介助無しでは生活できない」──誰に、どの程度依存しているかが一言で伝わる。「家族のサポートがある」では足りない。具体的な依存状況を書くことが重要だ。
この5つの期間で、俺は1級の認定を受けた。文章が上手かったわけではない。「何が」「なぜ」「どの程度」できないかを、正直に書いただけだ。
書いていて詰まったポイント3つ
- どこまで細かく書くべきか:排泄の問題や介助の具体的な内容まで書くべきか迷った。答えは「書く」だ。見えないなら言葉で伝えるしかない
- 就労状況の説明:「働けない」では不十分。「なぜ就労が困難なのか」を身体的な理由と具体的な状況で記述する必要がある
- 主観と客観のバランス:「つらかった」ではなく「何ができなかったか」を事実として書く。家族にどの程度の介助を頼んでいたかも具体的に記述した
社労士に頼むべきか、自力でいくか
俺は自力でやった。でも「自力が正解」とは思っていない。後悔しないために、両方の実態を先に把握しておくべきだ。
| 自力申請 | 社労士に依頼 | |
|---|---|---|
| 費用 | 基本無料(書類の実費のみ) | 成功報酬:受給額の10〜15%が相場(不支給なら0円) |
| 時間・手間 | 書類収集・記入・提出すべて自分 | 書類の大半を代行してもらえる |
| 申立書 | 自分で書く(最難関) | 社労士がヒアリングして代筆・添削 |
| 等級への影響 | 書き方次第で変わる可能性あり | 専門家の目で「漏れ」を防げる |
| 向いている人 | 身体障害で状態を言語化しやすい・時間と気力がある | 精神障害・認知機能の問題あり・申請手続き自体が困難な方 |
社労士費用が「高い」と感じるかもしれないが、1級と2級の年金差額は年間約24万円(2026年度)。10年で240万円の差になる。費用対効果で考えると、依頼する価値は十分ある。
迷っているなら、社労士への無料相談だけでも先にやることをすすめる。相談だけなら費用はかからない。
「自力・社労士・ハイブリッド型のどれが自分に向いているか」をセルフチェックで確認したい方はこちら:
→ 【実録】障害年金を自力申請して1級を勝ち取った俺の記録──申請スタイルの選び方
精神障害の方へ──申立書のハードルは身体障害より高い
精神障害の場合、審査で使われる診断書は専用の様式がある。そこで医師が記入するのは以下の項目だ。
| 審査で見られる主な項目 | 内容 |
|---|---|
| 日常生活能力の程度 | 食事・清潔保持・金銭管理・通院管理などが自力でできるか |
| 日常生活能力の判定 | 7つの場面それぞれを4段階で評価 |
| GAFスコア | 全体的機能評価(0〜100点、低いほど重い) |
| 就労能力 | 働ける状態かどうか |
ここで重要なのは、「診察室での様子」と「自宅での実態」がズレやすいという点だ。受診日に気力を振り絞って外出・会話ができたとしても、家に帰れば何日も寝込む——ということが珍しくない。医師はその「家での実態」を見ていない。
だからこそ、診察のたびに「調子の悪い日の状態」を医師に伝え続けることが重要だ。「今日はなんとか来られましたが、来られない日がこれだけあります」という事実を、口頭でも記録でも伝える。
また、精神障害の審査では生活環境も評価に影響する。家族と同居していて身の回りの世話をしてもらっている場合、「支援を受けながら生活できている」と判断されやすい。だからこそ申立書に「家族がどの程度介助しているか」を具体的に書き、「自力では無理で、誰かのサポートがあって初めて成り立っている」という実態を正確に伝えることが必要になる。
精神障害の申請こそ、社労士への依頼を強くすすめる。申請手続き自体が症状のために困難なことがある。サポートを受けることは弱さではない。
3ヶ月、何級になるか分からなかった
申請してから認定通知が届くまで、約3ヶ月かかった。
その間、ずっと不安だった。何級になるか分からない。1級と2級では受給額が大きく違う。労災は2級だった。障害年金も2級だったら——そう考えると、夜眠れない日もあった。
令和元年6月初旬、通知が届いた。
1級だった。
安堵と、虚しさが同時に来た。1級という認定は、「それだけ重い障害がある」という証明でもある。喜んでいいのか分からなかった。でも家族のことを考えると、これでよかったと思った。
自力申請して分かった3つのこと
- 診断書を書いてもらう医師を選べるなら、選ぶべきだ
自分の状態を一番理解している医師に依頼することが、結果に直結する可能性がある - 申立書は「事実の羅列」で書く
「つらかった」より「何ができなかったか」。具体的な事実が審査官に実態を伝える唯一の方法だ - 不安な3ヶ月は、覚悟しておく
申請してから結果が出るまでの時間は精神的にきつい。誰かに話せる環境を作っておいてほしい
ブログに書けなかった感情の記録を、実録として書いている――ヘタゴリラ一代記(note)
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