法定雇用率2.7%|当事者が見た数合わせ雇用の現実

就労支援施設の廊下をクラッチ杖で歩く男性・朝の光

2026年7月1日、法定雇用率が2.5%から2.7%に引き上げられる。

ニュースを見て、正直に言う。「また数字か」と思った。

嬉しくないわけじゃない。前進は前進だ。企業に障害者雇用を義務付ける制度が厳しくなること自体は悪くない。でも、手放しでは喜べなかった。現場を知っているからだ。

俺は50歳。2017年に建設業の現場から6メートル落下し、脊髄損傷で両下肢障害になった。それまで20年以上、人を雇って動かす「事業主」側にいた。障害者になってからは、立場が逆転して「採用される側」として制度と向き合うことになった。クラッチ杖で生活しながら、就労継続支援A型を数ヶ月使った経験もある。

そこで俺が見たのは、「数字を埋めるための雇用」の現実だった。

「採用された」と「力を出せる場所にいる」は、まったくの別物だ。

目次

法定雇用率とは何か——まず前提を正確に押さえる

法定雇用率とは、ざっくり言えば「従業員が何人かいるなら、そのうち最低何人かは障害者を雇いなさい」という国の決まりだ。たとえば「うちは100人いるから、最低でも2〜3人は障害者を雇う義務がある」——そういう話だと思ってもらえばいい。

この率は段階的に引き上げられてきた。

区分〜2024年3月2024年4月〜2026年7月〜
民間企業2.3%2.5%2.7%
国・地方公共団体2.6%2.8%3.0%
※都道府県等の教育委員会は2.9%

2026年7月からは、義務が発生する会社の規模も広がる。従業員40人以上から「37.5人以上(実質38人以上)」に下がる。つまり、これまで「うちは小さいから関係ない」と思っていた38人・39人の会社にも、「雇え」という圧力がかかるようになる。

ルールを破ったときのペナルティが「障害者雇用納付金(のうふきん)」だ。ただ、ここは正確に言っておく必要がある。この罰金は、常用労働者(ふだんから働いてる人。正社員もパートも含む)が100人を超える会社だけが対象で、不足1人につき月5万円。100人以下の会社には、そもそも課されない。しかも、今回新しく対象になった会社には「いきなり満額はキツいだろう」と、5年間だけ月5万円が月4万円に割り引かれる猶予(経過措置)までついている。

この「罰金の歯のなさ」が、あとで効いてくる。頭の隅に置いておいてほしい。

制度の方向性は正しい。だが、率が上がることと、障害者が本当に力を出せる環境になることは、まったく別の話だ。

問題の本質——率は「入口」の数字でしかない

廃業後、俺はA型を数ヶ月使った。辞めた理由を一言で言うと「俺には合わなかった」だ。

誤解しないでほしい。「A型が悪い」と言いたいわけじゃない。そういう仕事が必要な人も、そういう場が必要な場面も確かにある。俺が引っかかったのは「合わない人間を、同じ枠に押し込もうとする構造」のほうだった。なお、A型で働きながら障害年金を受け取れるのかが不安な人は、就労支援A型と障害年金は両立できるのかにその仕組みをまとめている。

職員の人たちは丁寧だった。むしろよく対応してくれた。でも、彼らの言葉はどうしても「制度の説明」で止まってしまう。

俺が欲しかったのは、「お前のここが使えるから、ここで力を出せ」という言葉だった。事業主として人を動かしてきたから、その一言の重さを知っている。だが、それは来なかった。

法定雇用率は「入口」の数字だ。入口を広げることと、入った後に居場所を作ることは、まったく別の問題だ。

なぜ数字が上がっても現場は変わらないのか——3つの理由

理由①:「数を揃える」が目的になる

A型の事業所は、利用者の賃金や就職実績を国に報告しないといけない。事業所の評価が数字で決まるから、「利用者を在籍させ続けること」自体がゴールになりやすい。

会社側も同じだ。雇用率を達成するために障害者を採用するとき、最優先になるのは「管理しやすい仕事に配置すること」だ。リスクが少なく、業務がはっきり区切れて、見える化しやすい仕事。それが「達成のための枠」に割り当てられる。本人のスキルや経験は、後回しになる。

現場の言葉で言えば、これは人工(にんく)だけ揃えた応援と同じだ。頭数を合わせただけの助っ人と、本当に使える職人は別物だろう。人工だけ揃えても、現場は回らん。

俺が事業主だった頃、人を雇うときは「こいつにしかできない仕事があるか」で判断していた。だから逆の立場になったとき、その落差を痛いほど感じた。

雇う側は「管理しやすさ」で人を配置する。だが人間は、管理されやすいために生きているんじゃない。

理由②:「選べない・交渉できない」構造は、建設業の搾取とそっくりだ

建設業でずっと感じてきたことがある。下請けとして独立した6年間、俺は単価を自分で決められなかった。元請けに全部を握られ、言われた通りにこなすしかなかった。その6年間に何があったかは元請けと下請けの構造を書いた記事に詳しい。

A型でも、同じ匂いがした。仕事を選ぶ余地がない。できる仕事が限られている。「俺はここで何者になれるのか」という感覚がまるでなかった。稼ぐ側から受け取る側になった元事業主には、この構造が耐えられなかった。

そして制度の中身を見ると、この「数合わせで終わりやすさ」には、ちゃんと裏付けがある。さっき書いた通り、今回新しく対象になる中小企業(38〜100人の会社)の多くは、義務は負わされるのに、罰金(納付金)は100人超だけだから対象外なんだ。罰を食らわないまま「雇え」とだけ言われる。だったら、最低限の数を揃えて終わり——そうなりやすいのは、当たり前の話だ。

罰のないルールは、結局いちばん立場の弱い人間の体験を、二の次にする。

理由③:「達成」が免罪符になる

雇用率を達成している会社は、中の実態を問われにくい。職場で孤立していないか、雑用ばかり押し付けられていないか、その人に合った働き方の調整(合理的配慮=障害に合わせて働き方を変えること。スロープを付ける、時短にする、といった話だ)ができているか。それでも「採用している」という事実だけが、「うちは問題ない」の証拠として扱われてしまう。

現場の言葉で言えば、これは安全書類だけ完璧で、安全パトロールが来る日だけヘルメットを正す、あれと同じだ。書類の上では達成、でも中の人間がどう扱われているかは、誰も見ていない。

そもそも、その土台がどうか。厚生労働省の集計では、法定雇用率を達成している会社の割合は46.0%にとどまっている。つまり半数以上が、2.5%という今の基準すらクリアできていない。その状態で率だけ2.7%に上げる。現場のリアルは、ここにある。

「採用している」が、いつの間にか「だから問題ない」にすり替わる。

それでも、制度を知ることが唯一の武器になる

俺は引き上げを否定したいわけじゃない。制度が前進すれば、雇用機会は確実に増える。それは事実だ。

だが、障害者自身が「採用してくれるか」ではなく「ここで俺の力が出せるか」を問う目を持つことが必要だと思う。

就労移行支援、A型、B型、障害者枠での一般就労、オープン就労(障害を会社に伝えたうえで、一般の枠で働くこと)、在宅ワーク——選択肢は一つじゃない。まず制度の地図を頭に入れることが、最初の一歩になる。詳しくは障害になったら最初に知るべきこと——受給者証・自立訓練・制度の地図にまとめているので参考にしてほしい。

制度に使われるな。制度を使う側に回れ。それが当事者の最初の反撃だ。

今日からできること——当事者として動く3ステップ

ステップ1:選択肢を「戦力として迎えてくれる場か」で比べる

A型・B型・就労移行支援の違いを知り、どれが今の自分の段階に合うかを考える。ただ比べるんじゃない。「ここは俺を戦力として迎えてくれる場か」という目で見極める。俺はこれを、後から痛感した。それぞれの違いは働き出すまでの選択肢を全部教える記事で整理した。

ステップ2:「どんな仕事をするか」を必ず事前に確認する

見学や体験利用を使って、「数を揃えるための配置」じゃないかを自分の目で確かめる。「俺はここで何ができるか」を事業所にぶつけることを恐れるな。それを聞いて嫌な顔をする場なら、そこはやめておけ。

ステップ3:「障害者枠」だけにこだわらない

さっき書いたオープン就労という道もある。自分のスキルと経験を一度たな卸しして、制度の枠に自分を合わせるより、自分の強みを軸に動く。

事業所に気を使うな。気を使われる側になれ。お前は、揃えるための「数」じゃない。

まとめ——数字が変わっても、動くのは自分だ

法定雇用率が2.7%になることで、障害者が働ける場は増える。それは間違いなく良いことだ。

でも、「採用された」と「力を出せる場所にいる」は別物だ。

俺が建設業でずっと感じてきたことがある。「単価を知らないまま搾取される」「評価される基準を知らないまま動かされる」。それは障害者雇用の世界でも、形を変えて繰り返されている。

数字の前進を「俺の現実が変わった」と勘違いしないほうがいい。制度を知り、選択肢を知り、自分で動く——それが、障害当事者として俺が出した答えだ。

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この記事を書いた人

元・建設業の個人事業主。現在は障害年金・労災年金・就業不能保険を活用しながら、配当金を軸に“無理のない自立生活”を目指す50代男性です。
配当投資、住宅ローン、保険の見直しなど、障害と向き合う中で学んだ「お金と生き方」のリアルを発信しています。

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