最初に言っておく。これは成功した経営者のノウハウじゃない。人手不足を「当たり前」と放置したまま自分が現場に出て、事故で障害を負い、会社を畳んだ男の反省文だ。
職人10人足らずの会社をやっていた頃の俺は、いつも「ギリギリだけど回ってる」状態だった。誰かが辞めれば現場が混乱し、また人を探して、なんとか埋める。それを「経営」だと思っていた。
でも今ならわかる。あの“ギリギリ回ってる”こそが、崩壊の予兆だったんだ。
俺と同じ年代で、今もまさに小さく会社を続けている人。「今はなんとか回ってる」「人手不足なんて当たり前」と思っている社長へ。崩れてからでは遅い。まだ崩れていない今だからこそ打てる手を、痛い目を見た俺の言葉で渡したい。
俺が崩れていった一部始終は、こちらに書いた。
→ 人手不足で会社が崩れた──社長だった俺が廃業を選ぶまで
なぜ「ギリギリ回ってる」が一番危ないのか
人手不足の現場には、共通する罠がある。
回っている間は、誰も問題だと思わない。売上は立っているし、現場は今日も終わる。だから社長は「根っこの見直し」を後回しにする。俺もそうだった。目の前の仕事をこなすことが最優先で、立ち止まる勇気がなかった。
でも「ギリギリ」というのは、余白がゼロということだ。一人辞める、一人ケガする、一人飛ぶ。たったそれだけで、ギリギリは一瞬で「回らない」に変わる。俺の場合は、頼りにしていた実習生2人の失踪が引き金だった。そこから社員が次々辞め、最後は社長の俺が現場に出るしかなくなり、その現場で落ちた。
崩壊は「大事件」で起きない。「一人抜けたら終わる状態」を放置した結果として、静かに起きる。
だから備えの本質はシンプルだ。「一人抜けても崩れない」状態を、崩れる前に作っておく。それだけだ。以下、俺がやっておくべきだった5つを書く。
備え①|属人化をなくす──「あの人がいないと困る」を消す
一番の急所がこれだ。
小さな現場ほど「あの人がいないと、あの作業は回らない」という状態になりやすい。段取りも、元請けとのやり取りも、特定の職人や社長の頭の中にしかない。俺の会社もそうだった。だから一人抜けるたびに、現場全体が止まった。
やるべきだったのは、頭の中にある段取りを「外に出す」ことだ。難しいマニュアルじゃなくていい。
- 現場ごとの段取りを、写真とメモでスマホに残す
- 「この作業はこの順番」を、若手でも見れば分かる形にしておく
- 元請けの連絡先・約束事を、社長以外も把握できるようにする
「誰がやっても同じように回る」状態は、職人の腕を否定するものじゃない。一人が倒れても、残りが食っていける保険だ。
属人化したままだと、いざという時に困るのは社長だけじゃない。残された従業員も、引き継げないまま現場に放り出される。それが一番むごい。
備え②|急な退職・失踪に崩れない体制をつくる
人は辞める。これは前提にすべきだ。
俺は「辞めないでくれ」と願うことしかできなかった。だから一人辞めるたびに「次は誰だ」とビクビクして、スケジュール表とにらめっこしていた。これは体制じゃない。ただの神頼みだ。
「抜けた穴を急いで埋める」発想から、「誰かが抜けても崩れない」発想へ切り替える。
- 常に一人分の余白を持てる受注量に抑える(満タンで受けない勇気)
- 一つの現場を一人に丸投げしない。最低二人で内容を共有しておく
- 「辞めたい」のサインに早く気づく。沈黙が増えた、冗談が減った──それは限界の合図だ
俺の現場は、崩れる前から空気がピリついていた。冗談が減り、沈黙が増えていた。あれが「辞める前兆」だったと、今ならわかる。業績の数字より先に、現場の空気が崩れる。そこを見ろ。
備え③|元請けに飲まれない「断る力」を持つ
弱小ほど、元請けの言うがままになる。「断ったら次はない」という恐怖で、無理な量・無理な単価・無理な工期を飲んでしまう。そして、そのしわ寄せは全部、従業員の負担になる。
俺もそうだった。自分の会社より、元請けの顔色を優先していた。仕事を断れない状況を、自分で作り出していたんだ。
断る力は、根性論じゃなく「準備」で持てる。
- 取引先を一社に依存しない。複数の元請けと付き合っておく
- 自分の現場の「適正な単価」を知っておく(知らないと、安さに気づけない)
- 「今は手一杯なので」と言える余白を、常に少しだけ残しておく
この「元請けと下請けの力学」──単価の決まり方や、値切られ続ける構造の正体は、別記事で詳しく書いた。断れない理由が「構造」にあると分かると、対処が見えてくる。
→ 【後悔しない無敵の指南書2】元請けと下請けの力学
断れないのは、あなたが弱いからじゃない。断れる準備をしてこなかっただけだ。準備はできる。
備え④|社長が倒れても回る現場をつくる
これが、俺が一番伝えたいことだ。
俺は「社長は最後まで責任を取って現場に出るもの」と思い込んでいた。社員が辞めて回らなくなったとき、自分が出れば何とかなると信じた。でも、その判断が俺から動ける身体を奪った。
社長が潰れたら、会社も、従業員も、家族も、何もかもが崩れる。社長の本当の仕事は「一番頑張ること」じゃない。「自分が抜けても回る現場」をつくっておくことだ。
- 社長しか知らない情報(取引・金・段取り)を、信頼できる誰かと共有しておく
- 自分が動けなくなった時、誰に何を頼むかを決めておく
- 同業者と「何かあったら助け合う」関係を、平時から作っておく
俺は事故のあと、信頼できる同業者に相談して従業員を引き受けてもらった。「何かあった時に慌てて頼る」のではなく、「何かある前提で、平時から繋がっておく」。あの繋がりがあったから、従業員を路頭に迷わせずに済んだ。これだけは、間違っていなかったと思える数少ないことだ。
備え⑤|社長自身の「身体」と「お金」を守っておく
最後は、社長個人の備えだ。仕組みをどれだけ作っても、社長本人が無防備なら意味がない。
現場仕事は、毎日ケガのリスクを背負っている。若くても健康でも、明日どうなるかは誰にもわからない。俺は40代で6メートルから落ちた。その日まで、自分がこうなるなんて1ミリも思っていなかった。
- 一人親方なら、労災の特別加入に入っておく(月数千円から入れる)
- 「働けなくなった時」に備える保険を、貯蓄型ではなく掛け捨ての就業不能・所得補償で確保する
- ケガ・廃業の時にどんな手続きと出費があるかを、元気なうちに知っておく
俺が「備えていたこと」と「備えていなかったこと」で、その後の人生は天と地ほど変わった。何を備えておけば良かったかは、ここに全部書いた。
→ 廃業届の前に|一人親方が知らずに損した手続きとお金
→ 【後悔しない無敵の指南書6】ケガ・病気・廃業に備える
身体を守る備えは、弱気でも縁起でもない。家族と従業員を守るための、社長の義務だ。
今日、たった一つだけやってほしいこと
5つ全部を今日やれとは言わない。倒れる前の俺だって、できなかった。
だから一つだけ。今夜、「この人が突然いなくなったら、ウチの現場は止まる」という人を、一人だけ思い浮かべてほしい。社長自身でもいい。
思い浮かんだなら、それがあなたの会社の「一番もろい場所」だ。その一点について、「もしそうなったら、どうするか」を、頭の中で一度だけシミュレーションしてみてほしい。
それだけで十分だ。崩壊を「自分事」として一度でも考えられたなら、あなたは倒れる前の俺より、確実に一歩前に立っている。
まとめ──「回す」のではなく「崩れない」を選べ
俺は、会社を「回すこと」に必死だった。でも本当に必要だったのは、「崩れない仕組み」をつくることだった。その違いに気づいたのは、全部失ってからだ。
- ギリギリ回ってる=余白ゼロ=崩壊の予兆
- 属人化を消し、一人抜けても回る形にする
- 人は辞める前提で、余白を持って受注する
- 元請けに飲まれない「断る準備」をしておく
- 社長が倒れても回る体制と、社長自身の備えを持つ
これは説教じゃない。同じ崖の手前に立っている、昔の俺みたいな社長への手紙だ。まだ間に合う。崩れる前の今しか、できない備えがある。
📖 俺のこれまでの全記録を読みたい人へ
元職人→廃業→障害→どん底→投資で4,000万円——
この軌跡を一本のストーリーとしてまとめた
note連載「それでも俺は生きている ― ヘタな仮設屋の、笑えるけど刺さる30年 ―」を公開中です。
👉 note: hetagorilla
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