月に40万以上稼いでいるのに、気づいたら口座にゼロ。「また使い切った」という感覚すらなく、月末にATMの残高を見て初めて気づく。そんな20代を過ごした建設職人は、俺だけじゃないはずだ。
手取りは高い。だけど残らない。建設業にはそういう罠がある。俺は20代でそれを全部溶かした。今から、その話をする。
「稼いでいる」は錯覚だった
20歳でガソリンスタンドを辞めて足場会社に入った。常用として雇われる形だったが、法律上は「一人親方」扱い。社会保険なし、雇用保険なし。そのことの意味すら、当時の俺にはわかっていなかった。
日当は当時の若手にしては悪くなかった。月30〜40万円は稼いでいた。「普通のサラリーマンより稼いでる」と思っていた。俺の周りの職人たちも似たようなものだった。年上の職人たちも「現場があれば食える」と言っていた。その言葉を、俺は疑ったことがなかった。
でもそれは「見た目の収入」であって、本当に残る金ではなかった。今の俺が当時に戻れるなら、一番最初にその錯覚を壊しにいく。
常用一人親方の3つの罠——なぜ「雇われているのに丸裸」なのか
建設業の現場には「常用一人親方」という働き方が多い。会社に雇われているような感覚で毎日同じ現場に出るが、契約上は個人事業主だ。この構造が、お金の罠の根っこにある。
罠① 社会保険がない——老後の積み立てがゼロになる
会社員として働く正社員なら、厚生年金と社会保険料を会社が半分出してくれる。月収40万円なら、会社側が毎月3〜4万円を肩代わりしている計算だ。
常用一人親方だった俺にはそれがなかった。国民年金(月約1.7万円)、国民健康保険(収入に応じて月3〜4万円)を全部自分で払う。払えば済む話だが、問題はその先だ。
厚生年金のない俺は、老後にもらえる年金が国民年金だけになる。同じ収入で20年働いた正社員と比べると、将来の年金額に数万円の差が出る可能性がある。20代では想像もできなかったその差が、老後に重くなる。
「稼いでいる実感」があるぶん、引かれる金の重さと将来のコストを軽く見ていた。
→ 一人親方としての立場と社会保険の仕組みは、お前は社長だ──建設職人が知らないまま損し続ける「個人事業主」の現実に詳しく書いた。
罠② 税知識ゼロ——稼いだつもりで翌年吹き飛ぶ
個人事業主として働いていると、毎月の収入から源泉徴収が引かれない。入金された金額が「全部俺の金」という感覚になる。
だが翌年の確定申告の時期に現実が来る。所得税と住民税が合算でドカンとやってくる。
俺が27歳で請負に転じる前——常用の一人親方だった頃は、上手いこと言われて確定申告をしていなかった。「そこはこっちでうまくやってるから大丈夫」という空気の中で、俺も深く考えなかった。請負に転じてから自分で向き合い始めて、翌年の税額を見て「え、こんなに?」と思う経験を何度繰り返したか。
知識がないまま稼ぐと、後から回収される。それが一人親方の税の現実だ。
→ 確定申告・経費の考え方を知りたい人は、保険と税金でむしり取られるな──建設職人が知らないまま損し続ける本当の理由を読んでほしい。
34歳で本当の意味での独立(元請けを変えて自己営業に転換)をして初めて、確定申告と本気で向き合えた。経費の考え方、青色申告の仕組み——それまで10年以上、俺は丸腰で働いていた。遅すぎた、とは今でも思う。
罠③ 全部使い切る習慣——パチンコと車と見栄
20代の俺のサイクルはこうだった。現場→パチンコ→コンビニ→パチンコ→くりかえし。
笑えない話だが、本当にそうだった。貯金という発想がなかった。「お金は使うもの」——父もお金にだらしなかった。俺も同じだったと、今は素直に言える。 20代の10年間でパチンコに溶かした金を、大人になってから大雑把に計算してみた。月に数万円として10年、優に200〜300万円は消えている計算だ。当時の俺にそれを言っても「だから何だ」と返しただろうが、今は「それだけの種があった」と思う。
車はローンで買い続けた。金利なんか気にしたことがなかった。「月額でいくら払えるか」さえクリアなら問題ない、という感覚だった。ローンの本当のコストを計算したことは一度もなかった。
体一つで稼げる自信が、備えの必要性を感じさせなかった。それが、「いつか体が動かなくなる日」への準備をゼロにした。
月収40万円の建設職人——実際に残る金はいくらか
数字で整理すると、こうなる。
| 引かれる項目 | 税知識ゼロの場合 | 経費+青色申告を使った場合 |
|---|---|---|
| 国民年金 | 約17,000円 | 約17,000円(変わらない) |
| 国民健康保険 | 約35,000〜40,000円 | 約14,000〜22,000円 |
| 所得税・住民税(月換算) | 約35,000〜50,000円 | 約15,000〜25,000円 |
| 見えない引き算の合計 | 約87,000〜107,000円 | 約46,000〜64,000円 |
| 実質手取り(月収40万から) | 約29〜31万円 | 約34〜36万円 |
※「経費+青色申告を使った場合」の数字は目安であり、計上できる経費の種類・金額は業態・状況によって大きく異なる。税理士または青色申告会への相談を推奨する。
月収40万円と思っていた俺の実質手元は、約29〜31万円だった。知識があるかないかで、毎月4〜6万円変わる。年間で50〜70万円の差だ。
そこへパチンコ・車のローン・日々の浪費が加わる。何も残らないどころか、翌月の請求に追われる月もあった。
「稼いでいる感覚」と「実際の手取り」の間にある9〜11万円のギャップ——これを20代で知っていたら、俺の行動は変わっていたはずだ。
「体が動くうちは稼げる」の先にあるもの
40歳のとき、足場から6メートル落ちた。
「やばい、生きてしまった」。入院した最初の夜、本気でそう思った。体が動かなくなれば、もう稼げない。自分の価値は「体で働けること」だけだと、20年間信じてきたからだ。
備えはほぼゼロだった。「まさか自分が」という感覚が、真剣に向き合うことを後回しにさせていた。
入院中に初めて、制度の存在を知った。労災の特別加入、就業不能保険、障害年金——どれも20代で知っておけば、受け取り方もタイミングも変わっていたはずだ。知識がないまま体を張り続けた結果が、廃業だった。
建設業の体は有限だ。でも知識と備えは今日から始められる。
一人親方が労災に入っていないと廃業後にどうなるか。俺の実体験を「一人親方が労災に入っていなかったら、俺の人生は詰んでいた」に書いた。
今日からできること——20代の俺に伝えたかった3つ
- 「実質手取り」を計算する — 国民年金・国保・住民税を引いた金額が、本当の自分の収入だ。まずそれを把握しろ。「稼いでいる」と「残っている」は別の話だ。
- 自分の「立場」を正確に知る — 常用なのか請負なのか、それとも元請けなのか。立場によって社会保険の扱いも、税の仕組みも、使うべき制度も全部変わる。「建設職人が知らないまま損し続ける「個人事業主」の現実」を読んでほしい。
- 1円でもいいから備えを始める — 貯金でも積立でも何でもいい。「余ったら貯める」ではなく、先に取り分ける習慣を今すぐ作れ。この習慣があるかどうかで、10年後が大きく変わる。
俺が投資を始めたのは2021年末のこと。事故から4年以上たっていた。今からでも遅くはない。ただ、早ければ早いほど時間が味方になる。
まとめ
建設業の手取りは、確かに高く見える。だが常用一人親方には社会保険がなく、税金は翌年にまとめてやってきて、体を張って稼いだ分を使い切る習慣がある。この3つが重なると、月40万稼いでも何も残らない。
20代の俺に今の知識があれば、もっと違う30代を過ごせていたはずだ。だが後悔してもしょうがない。
知識は、今持てばいい。動くのは、今から始めればいい。
この記事が、20代の建設職人に届いてほしい。
📖 俺のこれまでの全記録を読みたい人へ
元職人→廃業→障害→どん底→投資で4,000万円——
この軌跡を一本のストーリーとしてまとめた
「それでも俺は生きている ― ヘタな仮設屋の、笑えるけど刺さる30年 ―」をnoteで公開中です。
→ note: hetagorilla

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