建設業で働いてきた俺が、一番「しまった」と思ったのは——保険の中身を何も知らずにハンコを押していたことだ。
「掛け捨ては損ですよ」という言葉を信じた。変額保険に何年も払い続けた。そして40歳で現場から落ちた日、病院のベッドの上で「おりません」と言われた。
今日はその話を全部書く。同じ思いをする建設業者を、一人でも減らしたいから。
俺は病院のベッドの上で「おりません」と言われた
6メートルの高さから落ちた後、俺は障害等級1級の認定を受けた。
建設業で20年以上飯を食ってきた人間が、ある日突然「働けない側」になった。
怪我をして最初に頭をよぎったのは痛みじゃなかった。「明日から収入がなくなる」、それだけだった。
入院中、長年かけてきた変額保険の担当者に病院に来てもらった。請求しようとしたら言われた言葉がこれだ。
「あなたの怪我では、おりません」
まだ正式な傷病名も確定していない段階の話だ。おかしいと言ったら、次に来た時は上司を連れてきた。そして言われた。
「それ以上言うなら、裁判になります」
何年も保険料を払い続けた人間に、病院のベッドの上で言う言葉がそれか。
でもここで俺は正直に書かなければいけない。半分は俺が悪かった。変額保険が何かも知らずにハンコを押した俺自身の無知が、この結果を招いた。
変額保険の失敗と、その後俺がどう保険を整理したかは別記事で詳しく書いている。今日はその経験をもとに「建設業者が保険で失敗しないために何を知るべきか」を書く。
「掛け捨ては損」は誰が言い始めたのか
まず名前の話をしよう。
「掛け捨て保険」という名前、冷静に考えると怖い名前だ。掛けて、捨てる。お金をドブに投げ捨てるようなイメージがある。
実際に俺も保険営業に言われた。「掛け捨ては損ですよ、払った分が戻ってくる保険の方がお得じゃないですか」と。
でも自動車保険はどうだ。火災保険はどうだ。
事故に遭わなかった年、「今年も掛け捨てで損したな」と思うか。思わないだろう。使わなかった=守られていた、それだけの話だ。
なぜ就業不能保険や生命保険だけ「損」と感じるのか。答えは単純だ。そう思わせた方が、売れる商品があるからだ。
保険営業のマージン構造を知っているか。掛け捨て保険より貯蓄型保険・変額保険の方が、営業マンに入るマージンがはるかに大きい。営業マンが悪人というわけじゃない。そういう構造になっているだけだ。
だから「掛け捨ては損ですよ」という言葉が生まれる。だから「払った分が戻ってくる」という甘い言葉で貯蓄型を勧めてくる。
知識のない建設業者は、そこに釣られる。俺もそうだった。
俺の失敗談——一言で言う
家を買った時にハウスメーカー経由で紹介された担当者が高級車で現れて、変額保険を勧めてきた。「高度障害になれば保険金が出ます」と言われてハンコを押した。変額保険が何かも知らなかった。
結果は冒頭の通りだ。怪我をして請求したら「おりません」。異議を唱えたら「裁判になります」。
月5万円超の変額保険は出なかった。月15,000円の掛け捨て就業不能保険だけが俺を救った。
無知だった俺が悪い。その反省を込めて、次の話を読んでほしい。
なぜ建設業者には安心が必要なのか
ネットでよく見る記事にこう書いてある。
「独身なら公的保険で十分。家族がいるなら死亡保障だけ足せばいい」
一般論としては間違っていない。会社員の建設業者なら過度な保険は確かに要らないかもしれない。
問題は現場に出ている人間の多くが一人親方だということだ。
一人親方と会社員では、公的保障の中身がまるで違う。
| 保障の種類 | 会社員 | 一人親方 |
|---|---|---|
| 労災保険 | 会社が自動加入 | 特別加入が必要・自分で手続き |
| 休業中の収入補償 | 傷病手当金あり(最長1年6ヶ月・給与の約2/3) | 傷病手当金なし・翌月から収入ゼロ |
| 障害年金 | 障害基礎年金+障害厚生年金 | 障害基礎年金のみ |
| 怪我後の生活保障 | 有給休暇・会社の補償制度 | 全部自分で準備 |
この表を見てほしい。一人親方が怪我をした翌月、収入はいきなりゼロになる。傷病手当金もない。障害が残れば年金も会社員より少ない。
会社員と一人親方では、怪我をした後の現実が根本から違う。
そしてもう一つ重要なことを言う。
死ぬより「半殺し」の方が家族への負担が大きい。
死亡なら遺族年金が出る。生命保険が出る。悲しいが、財務的には整理がつく。問題は高度障害・就業不能だ。収入が止まる。でも支出は増える。介護が必要になれば配偶者の人生まで変わる。
俺がまさにそれだ。
建設業者が配偶者にできる本当の配慮は、死亡保障だけじゃない。自分が「半分死んだ状態」になった時のための保障を持つことだ。
どんな状態になったら保険が出るのか——ここが一番重要だ
保険を選ぶ時、保険料や給付額ばかり気にする人が多い。でも一番確認すべきは「何をもって就業不能と判断するか」という支払い基準だ。
ここを間違えると、俺のように「おりません」と言われる。
就業不能保険の支払い基準は大きく2種類ある。
①保険会社独自基準——俺は絶対に勧めない
保険会社が自社で定めた「高度障害」の定義で判断する。
問題はその定義が保険会社の都合で作られているということだ。「両眼失明」「常時介護が必要な状態」など、極めて重篤な状態しか認めない定義になっていることが多い。
そして約款に書いてある。読まなかった俺が悪い、で終わる。
独自基準は保険会社の都合のいいように作られている。俺はそう確信している。自立して生活できる障害では非該当になる。怪我をして一番苦しい時期に「あなたの状態では出ません」と言われる。それが独自基準の現実だ。
俺が変額保険で痛い目を見たのはまさにこれだ。入院中に「高度障害で出ます」と言われてハンコを押した。いざ請求したら独自基準に該当しなかった。
短期の入院なら貯蓄で十分だ。独自基準の保険を買う理由はどこにもない。
独自基準が入っている保険は選ぶな。
②公的制度連動型——俺が勧める唯一の基準
国が定めた基準、つまり身体障害者手帳の等級または障害年金の等級を支払い条件とする保険だ。
基準が客観的で明確だ。保険会社が「うちの定義では非該当」と言える余地がない。国が認定した障害等級がそのまま基準になるから、保険会社の都合で覆されることがない。
一般的には身体障害者手帳3級以上、または障害年金2級以上を条件とする会社が多い。最近は手帳4級以下でも出る保険も増えている。
ただし一つだけ注意点がある。
認定までに時間がかかる。身体障害者手帳は症状が固定してから申請するため、早くて1ヶ月、通常3〜4ヶ月かかる。障害年金は初診から原則1年半後だ。
この空白期間は、業務中の怪我なら労災保険で乗り切れる。だから労災特別加入は必須だと俺は言っている。業務外のリスクに備えて貯蓄も持っておくことが前提だ。
時間がかかっても構わない。確実に出る保険の方が、すぐ出るかもしれない保険より価値がある。
公的制度連動型、身体障害者手帳または障害年金の等級が基準になっている保険を選べ。それだけだ。
まず自分の保障を確認しろ
「じゃあ何に入ればいいか」の前に、まず自分が今どんな保障を持っているか確認することが先だ。
ステップ① 労災特別加入しているか確認する
一人親方なら労災は自動加入ではない。特別加入の手続きをしていなければ、業務中の怪我でも労災は使えない。まずここを確認しろ。
ステップ② 給付基礎日額の設定を確認する
労災特別加入をしていても、給付基礎日額の設定が低いと休業補償が少なくなる。俺自身この設定が甘かった。契約書類を引っ張り出して確認してほしい。
ステップ③ 障害年金の見込み額を確認する
ねんきん定期便や年金事務所で、万が一障害を負った場合の障害基礎年金の見込み額を確認できる。一人親方は厚生年金がないので、この金額が思ったより少ないことに気づくはずだ。
ステップ④ 足りない部分だけ掛け捨てで補う
①〜③を確認した上で、月収と比べて足りない部分を就業不能保険・死亡保障で補う。これだけでいい。確認もせずに保険に入るから、かけすぎになる。
かけすぎにも注意が必要だ
ここまで読んで「じゃあ保険をたくさんかけよう」と思った人、少し待て。
保険のかけすぎも立派な失敗だ。俺がそれだ。
建設業者は収入が不安定になりやすい。独立すれば収入の波がある。障害を負えば収入が激減する。そういう状況で保険料が家計を圧迫し始めたら本末転倒だ。
保険は「万が一」を買うものだ。毎月の生活を削ってまで買うものじゃない。
整理するとシンプルだ。
| 備えるもの | 手段 |
|---|---|
| 死亡 | 掛け捨て死亡保障 |
| 就業不能・高度障害 | 掛け捨て就業不能保険 |
| 業務中の怪我・病気 | 労災特別加入(一人親方は必須) |
| 入院の差額ベッド代・食事代・雑費 | 貯蓄で備える |
| 医療保険 | 不要(労災+貯蓄で代替可能) |
| 貯蓄型保険(変額・外貨建て・養老・終身すべて) | 不要(保険と投資は混ぜるな) |
自分の保障を確認してから、足りない部分だけ掛け捨てで持つ。それだけでいい。
保険料の目安は手取り収入の5〜10%以内に収めることを意識してほしい。それを超えてくるようなら設計を見直すべきだ。
貯蓄型保険とは変額保険・外貨建て保険・養老保険・終身保険など「払った分が戻ってくる」と売られる保険の総称だ。運用先が株式か外貨かの違いはあるが本質は同じだ。手数料が高く営業マンのマージンが大きい。保険と投資が混ざっていてどちらも中途半端になる。
貯蓄型保険は種類を問わず全部選ぶな。余ったお金はNISAで自分で運用しろ。その方が手数料が安く自分でコントロールできる。
知識がなければ、守るための保険で守れなくなる
ここが一番伝えたいことだ。
建設業界はお世辞にもお金の知識が豊富な業界とは言えない。現場仕事で忙しく、保険の細かい話を勉強する時間も機会もない。俺もそうだった。
そこに保険営業が来る。事業主は特に狙われる。独立した直後、何人もやってきた。「社長、節税になりますよ」「万が一の時のために」。そういう言葉で法人保険や変額保険を勧めてくる。
知識がない状態で聞けば、悪い話には聞こえない。言われるがままにハンコを押す。
そして俺のように、いざという時に「約款に書いています」と言われる。
知識がない→粗悪な商品を掴まされる→いざという時に使えない→家族が詰む
この流れを断ち切るのは知識しかない。建設業者の保険と税金の全体像は指南書3「保険と税金でむしり取られるな」にまとめている。合わせて読んでほしい。
最後に
俺は転落事故の後、変額保険が使えないことを病院のベッドの上で知った。
あの時の絶望は今でも覚えている。
でも同時に思った。俺と同じ思いをする建設業者を減らしたいと。
掛け捨ては損じゃない。安心をシンプルに買っているだけだ。
貯蓄型保険の甘い言葉に乗るな。変額・外貨建て・養老・終身、名前が何であれ全部同じだ。マージンが高いから勧めてくるだけだ。
公的保険だけで足りると思うな。建設業のリスクは普通じゃない。
でもかけすぎるな。保険料で生活が詰んだら意味がない。
必要な安心を、必要なだけ、掛け捨てで買え。それだけだ。
俺が無知だったから払った授業料を、せめてこの記事で取り返したい。
📖 俺のこれまでの全記録を読みたい人へ
元職人→廃業→障害→どん底→投資で4,000万円——
この軌跡を一本のストーリーとしてまとめた
「それでも俺は生きている ― ヘタな仮設屋の、笑えるけど刺さる30年 ―」をnoteで公開中です。
→ note: hetagorilla

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