※この記事は特定の事業所への批判ではなく、制度の構造的な問題を当事者視点で解説するものです。現在A型を利用している方を否定する意図はまったくありません。
はじめに——俺がA型を3ヶ月で辞めた本当の理由
A型事業所を辞めた理由を、俺はずっと「元・事業主だから裁量のない環境が合わなかっただけ」と説明してきた。
それは嘘じゃない。でも、全部でもなかった。
3ヶ月いる間に、俺には「おかしい」と感じる場面がいくつかあった。元・事業主として経営側の目線を持っていたから気づけた違和感だ。
当時はうまく言語化できなかったが、今ならわかる。
あの違和感の正体は、「利用者のためではなく、事業所のために動いている構造」だった。
これは告発でも批判でもない。制度の設計上の歪みが生む、避けがたい現実の話だ。
知っておけば、自分を守れる。それだけのために書く。
ひとつだけ先に言っておく。
A型が本当に合っている人もいる。障害の種類や程度は人それぞれで、「毎日来られること」自体が大きな前進になる人もいる。俺の基準で全員を測るつもりはまったくない。
ただ、知らないまま入ることと、知った上で選ぶことは、まったく別の話だ。
その違いを伝えるために書く。
序章|いま、A型事業所で何が起きているのか
この記事を書いている2026年春、A型事業所に関する大きなニュースが相次いでいる。
まず事業所の閉鎖ラッシュだ。2024年度の報酬改定で「給付金に頼らない事業性」が厳格に問われるようになり、経営が成り立たない事業所が全国で続々と廃業した。厚生労働省の集計では、2024年度にハローワークが把握した障害者の解雇者9,312人のうち、7,292人がA型事業所の利用者だった。
そして2026年3月には、大阪の福祉会社「絆ホールディングス」傘下の4つのA型事業所が、給付金の不正受給で事業者指定を取り消された。不正受給額は大阪市分だけで約79億円(返還請求額はペナルティ込みで約110億円)、全国75自治体を合わせると約150億円規模に上ると報じられた。
これは氷山の一角だと俺は思っている。
制度の構造に問題がある以上、不正は「一部の悪質な事業所」の話では終わらない。
なぜそう言えるのか。次の章から、その構造を説明する。
第1章|なぜ事業所は稼がせなくても成り立つのか
就労支援A型がなぜ存在できるのか、その資金源から話す。
A型事業所の収入源は主に2つだ。
① 利用者の労働による売上
利用者が作業して生み出した商品・サービスの対価。
② 国からの給付金(訓練等給付費)
利用者1人あたり、1日いくらという形で自治体から支払われる公費。
問題はここだ。
②の給付金は、利用者が実際に「稼いだかどうか」に関係なく、「来た人数×日数」で支払われる。
金額の目安を出すと——
| 単位 | 金額目安 |
|---|---|
| 1人・1日あたり | 5,000〜10,000円 |
| 1人・1ヶ月あたり | 12〜15万円 |
| 利用者20人の事業所・月額 | 240〜300万円 |
つまり、利用者が売上を生み出さなくても、人数さえ揃えれば毎月数百万円の給付金が入ってくる。
極端に言えば「稼がせなくても、来させれば儲かる」構造が制度の中に埋め込まれているんだ。

これがすべての歪みの出発点になる。
第2章|なぜ福祉士の権限がオーナーより強いのか
俺がA型にいた時、一番不思議に感じたのがこれだった。
現場の空気として、オーナーよりも「サービス管理責任者(以下、サビ管)」と呼ばれる有資格者の発言力が明らかに強かった。
サービス管理責任者とは、福祉の国家資格のひとつだ。就労支援施設には法律で必ず1人以上置かなければならないと定められており、利用者一人ひとりの支援計画を作り、支援の質を管理・監督する役割を持つ。簡単に言えば「この施設の支援が適切かどうかを管理する責任者」だ。
オーナーがサビ管に気を遣っている場面を何度か目にした。経営者のはずなのに、どこか遠慮がある。最初は「福祉の専門家だから当然か」と思っていた。でも元・事業主の目線で考えると、どうしても腑に落ちなかった。
その違和感の答えは、制度の構造にあった。
サビ管がいないと、給付金がもらえない。
法令上、A型事業所はサビ管を必ず配置しなければならない。そしてサビ管の配置が確認できなければ、国からの給付金は止まる。
つまりサビ管は「事業所の収入源を握っているポジション」なんだ。
オーナーがどれだけ経営判断をしたくても、サビ管の顔色を伺わなければ事業が成り立たない。
この構造が、福祉の現場に「利用者のためではなく、給付金を守るための動き」を生みやすくする。
建設業で言えば、現場監督より資格保有者の方が発言力を持つ——そんな歪んだ力関係が、福祉の現場でも起きている。
第3章|障害者が気づかずに搾取される3つの構造
構造① 時間を短くして賃金総額を抑える
A型には最低賃金を払う義務がある。しかし「時給×時間」で計算されるため、勤務時間を短くすれば総支払額は下がる。
一方、給付金は「来た日数」で計算されるため、短時間でも来させれば事業所の取り分は変わらない。
結果として「短時間しか働かせないが、給付金はしっかりもらう」という経営が成立してしまう。
利用者は「働いた」という実感が薄いまま、月4〜6万円の収入で止まる。
なぜ短時間になるのか、建前と本音を整理するとこうなる。
| 建前 | 本音 |
|---|---|
| 障害があるから体への配慮で短時間 | 長く働かせると賃金コストが給付金を上回る |
| 無理のない範囲で働いてもらう | 短時間でも来させれば給付金の取り分は変わらない |
「あなたの体のため」と説明されながら、実態はコスト最小化のための短時間設定——建前と本音が逆になっているのが、この構造の一番わかりにくいところだ。
構造② スキルアップさせると損をする
本来、就労支援の目的は「一般就労への移行」だ。
しかし利用者が成長して一般就労に移行すると、事業所は給付金を失う。
囲い込んだほうが、事業所は儲かる。
だから「あなたにはまだ早い」「もう少しここで続けましょう」という言葉が生まれやすい。
善意からの言葉かもしれない。でも構造的に「出て行かせたくない」インセンティブが働いていることは知っておくべきだ。
構造③ 障害年金という「現状維持の安心感」を利用する
A型の利用者の多くは障害年金を受給している。
| 収入源 | 月額(目安) |
|---|---|
| 障害年金 | 6〜8万円 |
| A型賃金 | 4〜6万円 |
| 合計 | 10〜14万円 |
この金額は「劇的に豊かではないが、なんとか生活できる」水準だ。
そしてここに、静かな罠がある。
「まあ、ここにいればいいか」という気持ちが生まれやすい。
事業所側はその心理を把握している。「居心地のいい環境」を意図的に作ることで、利用者が外に出る動機を持ちにくくする。
利用者の「現状維持でいい」と事業所の「出て行ってほしくない」が利害一致する。
これが二重の搾取だ。国の給付金を不正に膨らませながら、利用者の成長の機会も奪っている。
第4章|俺が感じた「おかしい」の正体
元・事業主として現場に入った俺には、いくつか引っかかる場面があった。
具体的には書かない。特定につながる可能性があるからだ。
ただ、こういうことは感じた。
- 利用者が成長することへの関心が薄い
- 作業の中身よりも、来ること自体が目的になっている雰囲気がある
- なぜこの仕事をしているのかを、誰も説明してくれない
そして一番引っかかったのが、これだ。
いつも早く帰る人と、最後までいる人が、いつも同じだった。
俺には、その人たちの障害がどう違うのかわからなかった。見た目では何も区別がつかなかった。
でも今ならわかる。
障害の重さで時間が決まっているのではなく、事業所の採算都合で時間が決められている可能性がある。
早く帰る人=賃金コストを抑えたい利用者。最後までいる人=給付金とスコアを上げたい利用者。
本人には説明されない。家族にも見えない。外からも判断できない。
障害が重いから短時間なのか、採算が取れないから短時間にされているのか——誰にもわからない。それが一番怖いところだ。
経営をやっていた人間からすると、この違和感はかなり大きかった。
仕事は「なんのためにやるか」がわかっていないと、人は育たない。
A型の中で「なんのためにやるかわからない作業」をこなし続けることで、利用者が本来持っているはずの「働く力」が育ちにくくなっていないか——これが俺の一番の心配だ。
補足しておく。「生産性が低い=障害が重い」とは限らない。障害が重くても生産性が高い人はいるし、障害が軽くても作業が苦手な人もいる。事業所の目線では「生産性=利益」で判断するしかない。結果として障害の重さではなく採算都合で時間が決まる——これがこの構造の一番残酷なところだ。
第5章|今いる場所を自分で判断するチェックリスト
今A型を利用している人へ。以下のチェックリストで、今いる環境を自分で判断してほしい。
🔴 要注意サイン(3つ以上当てはまるなら真剣に考えてほしい)
- 半年以上いるが、スキルが何も上がっていない気がする
- 「一般就労」の話を担当者に振っても、はぐらかされる
- 毎日同じ単純作業の繰り返しで、先が見えない
- 障害年金+賃金で「まあいいか」と思って、深く考えていない
- 事業所の外にどんな選択肢があるか、誰も教えてくれない
- 「ここを辞めたら困る」という雰囲気がある
🟡 確認してほしいこと
- 個別支援計画に「一般就労への移行目標」が書いてあるか?
- 担当のサビ管と定期的に面談できているか?
- 自分の強みやスキルを活かせる作業があるか?
🟢 いい環境のサイン
- スキルアップの機会が用意されている
- 一般就労を目指す利用者を積極的に応援している
- 作業の意味・目的を丁寧に説明してくれる
第5章・補足|なぜハローワークに行くとA型を勧められるのか
「相談に行ったらA型を勧められた」——これはよく聞く話だ。それには構造的な理由がある。
理由1:A型への紹介が楽で早く、実績になる
ハローワークは就職件数が実績として評価される。一般企業への障害者就職は時間がかかりマッチングも難しい。一方A型は受け入れ先が決まっており手続きが簡単で「就労先が決まった」という実績になる。担当者にとってA型を勧めるほうが楽で早い。
理由2:A型事業所がハローワークに営業している
A型事業所は利用者を集めないと給付金が入らないため、ハローワークに積極的に営業をかけている。相談窓口に行った時点で、すでにA型を勧める流れが出来上がっている可能性がある。
理由3:障害者=A型という先入観
担当者の中に「障害者は一般就労が難しい」という先入観がある場合、最初からA型前提で話が進むことがある。一般就労を探したいという意思があっても「でもA型のほうが安心ですよ」と誘導されるパターンは珍しくない。
入口(ハローワーク)から既にA型へ誘導する構造になっている。知らずに流れに乗ると、自分で選んだつもりが誰かの都合で選ばされていた——ということになりかねない。
第6章|おかしいと思ったら、使える相談窓口
今いる場所がおかしいと感じたら、一人で抱え込まないでほしい。
| 窓口 | 内容 |
|---|---|
| 基幹相談支援センター | 市区町村に必ず設置。A型の利用相談・他の事業所への移行支援も対応 |
| 障害者就業・生活支援センター(なかぽつ) | 就労と生活の両面をサポート。A型からの一般就労移行を支援してくれる |
| 都道府県の障害福祉課 | 事業所の不正が疑われる場合の通報・相談窓口。具体的な証拠がなくても相談できる |
大事なことを言う。
今いる事業所を辞めても、選択肢はある。
障害年金は継続して受給できる(就労状況によるが、A型を辞めただけで即停止にはならない)。他のA型、B型、在宅ワーク、個人事業主という道もある。
「ここしかない」は、誰かに思わせられている可能性がある。
第7章|なぜ一般企業で働けないのか——俺がハローワークで感じた違和感
A型の問題を語る前に、一つ疑問があった。
障害者を雇う企業には助成金が出る。法定雇用率を達成すれば納付金も免除される。企業側にメリットがあるはずなのに、なぜ求人が少ないのか。
俺自身、ハローワークで障害者向けの一般求人を探したことがある。だが、見つけることができなかった。
その違和感の正体は、3つの壁だった。
壁① 求人が見つからない構造
障害者求人は一般求人と窓口が分かれている。専用窓口に行かないと求人票すら見えない。求人がないのではなく、見える場所に出ていない。
壁② 大企業は特例子会社に隔離する
大企業の多くは障害者雇用専用の子会社(特例子会社)を作り、そこにまとめて雇用する。一般の職場には出てこない。2025年6月時点で特例子会社は631社まで増加している。障害者は「別の場所」に囲われている。
壁③ 企業が採用に踏み切れない
助成金より、配慮コスト・トラブルリスク・周囲への説明コストのほうが重く感じられる。「雇いたいが何をさせればいいかわからない」という企業が多い。

この3つの壁の結果として——法定雇用率を達成している企業は全体の約半数に過ぎない。さらに未達成企業のうち57.6%は障害者を1人も雇用していない「ゼロ雇用企業」だ。
一般企業ルートが機能しないから、障害者はA型に流れていく。A型への依存が続くのは、障害者の問題ではなく社会全体の構造の問題だ。
まとめ——知ることが、唯一の武器だ
俺はA型を批判したいわけじゃない。
合う人には合う場所だ。居心地よく長く続けることが、その人にとっての正解である場合も当然ある。
ただ、「知らないまま搾取されること」だけは避けてほしい。
2018年、事故後に俺が保険屋に言われるままに9本も契約したのも、知らなかったからだ。
情報がない人間ほど、カモになる。これは保険でもA型でも同じだ。
今いる場所が本当に自分のためになっているか、一度だけ立ち止まって考えてみてくれ。
それだけでいい。
📖 俺のこれまでの全記録を読みたい人へ
元職人→廃業→障害→どん底→投資で4,000万円——
この軌跡を一本のストーリーとしてまとめた
「それでも俺は生きている ― ヘタな仮設屋の、笑えるけど刺さる30年 ―」をnoteで公開中です。
→ note: hetagorilla

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